沼田文化財めぐりその五

荘田神社の大公孫樹  群馬県指定天然記念物
所在地  沼田市井土上町九二三番地
指定   昭和二十七年四月二十五日
管理者  沼田市


写真は沼田市公式HPより

前号に薄根地区石墨にある三件の天然記念物を紹介した。薄根にはもう一件天然記念物がある。薄根、特に三峰山山麓地帯は利根において最も早くから開発されたところ、その点沼田の町など比較にならない。したがってこの地区からは石器、土器等の埋蔵物が多量に発見されている。おそらく古代人でも裏に山をひかえ、前に川が流れるこの付近一帯は絶好の生活地として目をつけたのだろう。そうした関係か天然記念物の数も他地区に比して圧倒的に多い。天然記念物に限っていえば

沼田……一
利南……〇
池田……一
薄根……四
川田……一
計   七
となる。

遠くから眺めるとさほど大木とも思われないが、そばへ近寄って見ると誰しも驚嘆の声を惜しまない。なにか怪物じみて、これでも木だろうかと疑いたくなるような樹容、見ているうちに人間のはかなさ、弱さが感じられてくる。それもそのはず千年樹令といわれているのだから、全く桁はずれの巨木である。

公孫樹の大木というと足利のばんな寺にこれに匹敵する大木があると思うが、さていずれが大きいか。

目通り     一〇m
根廻り     一二・六五m
樹高      五一・五二m
枝張り東西   三一・二〇m
   南北   三〇・三m
樹令推定    一、〇〇〇年

この木の高さは、沼田市材木町にある電々公社のあの鉄塔の高さほぼ同じである。

秋、落日に散る黄金色の落葉が見られる頃は、正に圧巻の眺めである。このあたりの高台に立って利根川沿岸から、遠く三国、谷川方面を見た景観は正に一幅のパノラマである。

樹幹にはいくつかの気根(木のこぶ)がちょうど乳のように垂れ下がっており、俗に乳いちょうと呼ぶところから、乳の出の少い婦人はこの気根を削り、煎じて飲むと乳の出がよくなるという信仰があり、随分遠くから採りにくる人がいて、戦前はなかなか賑やかだったが、最近はそんな信仰も薄れてしまった。現在は気根そのものも大分少くなっている。

この大公孫樹のある神社は実は諏訪神社で、荘田神社はこの地点よりやや北にある。それなのにどうして荘田神社の大公孫樹というか、どの本を見ても皆そう記してあるのがおかしい。その付近は諏訪原と呼ばれるところで、ご神体がお諏訪様であるところからよく使い姫の蛇が現れる。

千年の昔からこの木は何を見、何を感じていることやら、もし心あらば聞きたい気持にかられる。

諏訪神社南一帯の平地には最近諏訪台団地と称する住宅地が開発され、新しい住宅が建ち並び面目を一新してしまった。

団地の東、約百メートルの掘廻竜興寺には沼田市指定の文化財となった釈迦**の図の掛軸がある。今はなくなったが西倉内町公園通りにあった増円寺というお寺の什物だったこの掛軸は一見の価値がある。紙本金泥を多く使ったまことにすばらしい極彩の図で新鮮な感じがする。

大公孫樹の北に荘田城址があり、付近一帯見るべきものが多い。かえり大釜のえぼつき温泉につかるのも又一興だろう。