なぜ上毛高原駅なのか
昭和56年。
上越自動車道の工事も着々と進み、関越自動車道の計画とともに完成後の地域社会の発展に大きな期待がかけられている。ことに月夜野町には駅が設置されるので、その期待もより大きいものがある。
さて、その「仮称上毛高原駅」という駅名も新幹線計画の発表以来約十年、既に聞きなれたものとなってきた。或は人々の間に定着したともいえよう。しかし、私個人としては未だにこの駅名に対して、最初に受けた違和感を消し去ることができないのである。地元自治体でも駅名は「月夜野駅」を採用して欲しいとのことで陳情をしているようであるが、未だに新幹線当局が当初の仮命名を翻したという話は聞いていない。このままでは仮称でなく、本称になるのは時間の問題であろう。
新駅名を命名するのにどのような基準(規則)が国鉄や、鉄道建設公団にあるかは知らないが、駅名は単なる符号であってはならないと思う。少くとも地理上の位置を特定できうるものでなくてはならないと考える。したがって地名がそのまま駅名になってくることは当然である。
上越新幹線は、大宮駅を起点に、熊谷駅、高崎駅、上毛高原駅(仮称)、越後湯沢駅、補佐駅、長岡駅、燕三条駅(仮称)、新潟駅という停車の計画であるが、上毛高原以外の駅名はすべて地名である。
補佐は大字名、湯沢は町名、燕三条は燕市と三条市の中間ということであろう。その他は市名である。なぜ月夜野地点だけが地名でないのか全く理解できないのである。月夜野町やその周辺が現在はもちろん、過去においても上毛高原と呼ばれた事実はない。上毛高原という表現は新幹線の発表とともに突然として出現したものである。
鉄道建設公団東京新幹線建設局は「月夜野町は、群馬県の北西、利根川と赤谷川の清流に洗われる山紫水明な高原であります。」とパンフレットで紹介し、月夜野町を「高原」と言い切っている。
人文社の「日本分県地図地名総覧」の検引によって、群馬県及び近隣各県の高原を拾ってみると次のとおりである。(尾瀬ヶ原、戦場ヶ原、◯◯原というのは含めなかった。)
群馬県 なし
埼玉県 なし
茨城県 なし
山梨県 なし
新潟県 妙高高原
福島県 磐梯高原
栃木県 霧降高原、古峰ヶ原高原、那須高原
長野県 大平高原、御岳高原、鹿嶺高原、木曽駒高原、志賀高原、菅平高原、高峰高原、蓼科高原、富士見高原
上のうち私の行ったことのある、或は通過したことのある高原は妙高磐梯、古峰ヶ原、那須、志賀、菅平などであるが、いずれの土地も高原としての独特の気候風土をもっている。
(2018年2月撮影)
県内では著名な高原というものをあまり耳にしないが、「草津高原」という人もあり、嬬恋村の「高原キャベツ」なども知られている。
その他にも高原と呼ばれていると頃があると思うが、高原とは一体どのような地形をいうのであろうか。手許には何も調べる資料がないが、とりあえず岩波書店の「広辞苑」を聞いてみると、
「海面からかなり高い位置にあって平らな表面をもち、比較的起伏が小さく、谷の発達があまり顕著でない山地」と出ている。
駅のできる大字月夜野の上組地区の標高はおよそ四五〇メートルである。これが「海面からかなり高い位置」にあるかどうか。
高原として比較的馴染のある志賀高原は、標高一三〇〇メートルから、一七〇〇メートル(群馬県百科事典)だという。
これに比べれば月夜野は標高的には高い位置とはいえない。また平らな表面も狭いものである。起伏も小さいとはいえず、谷の発達が顕著でないともいえない。このように「広辞苑」に照らすかぎり月夜野を高原とするには不自然に思えてならないのである。
新幹線当局が地名を採用せず、全く新たな表現をもって駅名とする意図はわからないが、「月夜野駅」では何か支障があるのだろうか。他との区別がつかないということは考えられないし、町名であってみれば、有名でないからというのは理由にもならない。上毛高原はもっと有名でない。
もう少し地名にこだわって、少し広い地域を考えて見ると、例えば、郡名をとって「利根駅」とした場合、郡内に利根村があり混同が生じる。
「奥利根駅」としても、たしかに月夜野は利根郡の奥にはあたらない。もし、これを奥利根とするならば、利根郡はすべて奥利根である。県名では漠然としすぎるが、一応群馬県の北部に位置するから「北群馬駅」としても北群馬郡と混同されるし、逆に「群馬北駅」としても群馬町の北の意になってしまう。
つまるところ「月夜野駅」が一番適切だということになる。駅の位置が月夜野町大字月夜野という行政上の正式地名だからである。
上毛高原駅が正式命名されれば、それは駅名にとどまらず、次第に慣習上の地名として育って行くに違いない。あの独特の地形、自然環境、雰囲気などの気候風土をもち、自然発生的に名づけられた、すがすがしい高原とは無関係に…………。(月夜野町下津四〇七九)
沼田万華鏡より
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沼田万華鏡より
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